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7つのプロダクトに見る、デザインの今

INSIGHT

Takahiro Tsuchida

vol.25 2023.12.26

豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。

土田貴宏
土田貴宏

ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して、「Casa BRUTUS」「AXIS」「Pen」などの雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学と桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。
近著「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」(PRINT & BUILD)
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7つのプロダクトに見る、デザインの今

2023年にますます大きな注目を集めたデザイナーから、これからの活躍が期待される新世代まで。MAARKETが扱う7組によるプロダクトを選びました。その作風からは、今という時代に求められるものを思い浮かべることができます。

7つのプロダクトに見る、デザインの今

昨年の今頃、MAARKETが扱う6組のデザイナーによるプロダクトやその背景などを紹介しました。今年も新作をはじめとして、7組のデザイナーにフォーカスしてみます。まず最初は、イタリア・ミラノを拠点に活動するフォルマファンタズマ。彼らはフィンランドのArtekとコラボレーションして、アルヴァ・アアルトによる「スツール60」をアップデートした「スツール60ヴィッリ」を手がけました。そのフォルムはオリジナルとほぼ同じで、異なるのは使用しているフィンランド産バーチに色の濃い節(ふし)や虫食いの跡などが見られることです。

7つのプロダクトに見る、デザインの今

アルテックの製品に限らず、こうした「野生の痕跡」は木の家具において不良品と見なされがちでした。しかし木材は、伸びる枝が節をつくり、幹の芯は色が濃いのが当然です。また自然の中で育つ以上、多様な動物や虫と共生しています。フォルマファンタズマは、ありのままの木の姿を否定せずに製品として流通させることを提案したのです。スツール60ヴィッリは、あくまでアルヴァ・アアルトのデザインでありながら、フォルマファンタズマの思想をはっきりと反映した、社会や産業への明確なメッセージです。

7つのプロダクトに見る、デザインの今

芦沢啓治は、今、日本において最も活躍している建築家のひとりでしょう。ホテルから住宅まで幅広いプロジェクトに携わりながら、常に揺るがない作風を貫いています。「KARIMOKU CASE STUDY」から発表した「A-DT03 ダイニングテーブル」は、スウェーデンにあるレストラン「アング」のためにデザインされました。カリモクケーススタディの製品はすべて、建築家が特定の物件のためにデザインしたものが原型になっています。つまり空間が人々にもたらす豊かさや快適さをふまえ、その大切な構成要素として発想された家具なのです。アングのインテリアはデンマークのノーム・アーキテクツによるもので、そこで使われる家具は芦沢とノームが分担して手がけました。カリモク家具のメイド・イン・ジャパンならではの職人技も生きています。

7つのプロダクトに見る、デザインの今

芦沢と多くのコラボレーションを重ねているノーム・アーキテクツもまた、特に活躍の目立つデザインスタジオです。2008年にコペンハーゲンで設立されて以来、着々と実績を重ねて北欧のシーンを代表する存在になりました。彼らの特徴のひとつが、建築、インテリア、家具といった立体を扱うだけでなく、アートディレクションや写真にも活動のフィールドを広げてきたところ。「ペオニア01」は彼らの写真作品で、今にも花開こうとする濃赤の芍薬のつぼみを静的に捉えています。ミニマルであっても感性に訴える力をもつノーム・アーキテクツの作風が、この写真にも一貫しています。

7つのプロダクトに見る、デザインの今

インディア・マフダヴィは、2000年からパリを拠点に活動する世界的なインテリアデザイナーです。装飾の可能性を解釈し、色彩やパターンを独自に使いこなすスタイルは、豊富な経験に裏づけられたもので唯一無二と言っていいでしょう。曲木家具のエキスパートであるGTV ゲブルーダー トーネット ヴィエーナから彼女が発表したのは、アームの先端がループしたユニークなベンチ型ソファ。曲木がつくる優美な曲線で全体を構成しつつ、このループがひときわアイコニックです。さらに色使いにも魅力的な折衷感があります。

7つのプロダクトに見る、デザインの今

ヘルツォーク&ド・ムーロンは、スイス・バーゼルにある建築事務所で、その評価の高さは説明不要でしょう。彼らがドイツの家具ブランド「ClassiCon」 と初めてコラボレーションして発表した家具が「CORKER」です。このデザインは、2012年にヘルツォーク&ド・ムーロンが設計したサーペンタイン・パビリオンに合わせて着想され、それから約10年間を経て製品化が叶いました。シャンパンのコルクそのもののような形で、スツールとしてもサイドテーブルとしても使用できます。親しみのある素材感ですが、どこか不思議な静けさや不変性を漂わせるアイテムです。また用いられているコルクは環境負荷の低いマテリアルでもあります。

7つのプロダクトに見る、デザインの今

2023年の国内初個展が話題になったセシリエ・マンツも、現在のデザインシーンで精彩を放っています。彼女の代表作である「ワークショップチェア」のシリーズに、新しく「ワークショップベンチ」が加わりました。オリジナルを横方向に引き伸ばしたようなフォルムは、何もプラスしていないからこそ、ちょっとシュールな美しさがあります。しかしこのアレンジの裏側では、ワークショップチェアの開発と同様に長い時間と慎重な検討を要したに違いありません。ひとり掛けの椅子として、横に本や飲み物を置くような使い方もよく似合いそうです。

7つのプロダクトに見る、デザインの今

スタジオ・カクシッコは、フィンランド・ヘルシンキにあるアールト大学で陶芸を学んだサッラ・ルータセラと、同校で木工を学んだウェスリー・ウォルターズが2015年に結成。それぞれのバックグラウンドを生かしながら、コンテンポラリーにして愛着の湧くプロダクトを手がけています。「メアボウル」は、ルータセラがロクロでつくった丸い器を原点に、彼ららしい感覚を生かしたアイテム。幾何学的なフォルムが、テーブルの上に豊かな風景をつくります。

2023年もまたいろいろなことがあり、暮らしの中で心が潤う時間はだんだんと貴重になっている気がします。日々、目にする家具や日用品の選び方も、そんな感覚を求めてシフトしていくでしょう。こうしたニーズに応えるデザインの役割があらためて大切になっていきそうです。



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