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光、かたち、バランスを操る6組のデザイナー

INSIGHT

Takahiro Tsuchida

vol.19 2022.12.26

豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。

土田貴宏
土田貴宏

ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して、「Casa BRUTUS」「AXIS」「Pen」などの雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学と桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。
近著「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」(PRINT & BUILD)
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光、かたち、バランスを操る6組のデザイナー

MAARKETが扱うプロダクトの数々から、6組のデザイナーが手がけたものを紹介します。その6組とは、Lee Broom、Earnest Studio、Philippe Malouin、Omar Arbel、Victoria Wilmotte、そしてStudiopepe。それぞれに第一線で活躍していて、いっそうの活躍が見込まれる面々です。

光、かたち、バランスを操る6組のデザイナー

イギリス出身のリー・ブルームは、ヴィヴィアン・ウエストウッドのもとで経験を積んだこともある、ファッションのバッググラウンドをもつデザイナー。ファッション界の通例にならい、自身の名前と同じブランドを設立して15年間にわたり活動してきました。最近、自身の作品集『FASHIONING DESIGN』が発行されたばかりです。彼は特に照明器具に代表作が多く、そのデザインはたったひとつで空間全体を華やかに見せる力があります。代表作の「CRECENT」は、半球型を少しずらして組み合わせたような、シンプルにして不思議なバランスをそなえた照明シリーズ。ソフトな光とディテールの真鍮の組み合わせがドラマティックです。また「FULCRUM PENDANT」も、ミニマルなフォルムのコンポジションが独特の存在感を放っています。彼がつくり出す家具やインスタレーションもきわめてスタリッシュで、世界観が一貫しています。

光、かたち、バランスを操る6組のデザイナー

アーネストスタジオは、オランダのデザインアカデミー・アイントホーフェンで学んだレイチェル・グリフィンが2012年に設立。家具、照明器具、日用品などを主に発表してきました。簡潔に構成されたデザインの中に、意外な発想やスマートな解決がひそんでいるのが彼女の持ち味です。デンマークのMUUTOで製品化されたフラワーベース「KINK」は、太い筒を折り曲げたような形状でふたつの口があり、内部はつながってます。どこか人体を思わせるユーモラスな佇まいをしていて、花を生けた際の表情もユニーク。実用的なオブジェでもあり、彼女らしさが見事に表現されています。数々の人気デザイナーが輩出しているデザインアカデミー・アイントホーフェンが、その現代的なセンスの礎なのでしょう。

光、かたち、バランスを操る6組のデザイナー

まばゆい輝きが印象的なテーブル「PLI」は、ヴィクトリア・ウィルモットの代表作です。着色したメタルを折り曲げてつくるベース部分が周囲を映し出し、見る角度によって姿を変えていきます。色のバリエーションは、トパーズグリーン、サファイアブルー、パイライトブロンズ、オニキスブラックの4種類。それぞれのネーミングからも、宝石や貴石がイメージされているのがわかります。これはパリ出身で現在もパリが拠点のウィルモットによる、アクセサリーの家具化なのかもしれません。ただし彼女は、2000年代前半にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で学びました。当時のRCAは、デザインの枠を拡大するような試みがさまざまに行われ、個性豊かな才能が育っていきます。この学校を修了した彼女はエディション作品を多く手がけ、量産品だからといってデザインのアプローチを変えることはありません。

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何気ないフォルムが、なぜか強い愛着をもたらす。ロンドンを拠点に活動するフィリップ・マルインは、すぐれたデザイナーの条件ともいえる、そんな形を生み出す能力をそなえています。家具や照明器具なども幅広く発表している彼ですが、その持ち味を実感しやすいのが「KURU」。フィンランドのイッタラによるプロダクトで、マルチパーパスのセラミックボウルやフラワーベースが揃っています。いずれも幾何学的な造形を基調としながら、どこかシュールさを感じさせ、彫刻のようでもあります。また北欧の自然を連想させる色合いも魅力です。マルインもオランダのデザインアカデミー・アイントホーフェンの卒業生で、素材や技術に対する定石にこだわらない姿勢が創造の鍵になっています。

光、かたち、バランスを操る6組のデザイナー

オマー・アーベルは、2005年にカナダで照明ブランド「BOCCI」を創業し、現在までクリエイティブディレクターとしてすべてのプロダクトをデザインしています。またアートピース、インスタレーション、建築プロジェクトにも取り組んで、活動のフィールドをますます広げる気鋭の存在です。ただしクリエイションの軸はやはり照明であり、そのための素材や技術を追求し続けているといいます。「28T」は吹きガラスによってつくられていて、透明の球体に丸い窪みを不規則に施してあります。この手法により、ガラスとそこから放たれる光に有機的な変化を与えたのです。きわめて幅広いスケールで才能を発揮するオマー・アーベルですが、その片鱗をこうしたテーブルライトによってインテリアに取り入れることができます。

光、かたち、バランスを操る6組のデザイナー

イタリア・ミラノを拠点に活躍するスタジオペペは、現在のインテリアトレンドをリードする2人組として大人気です。2006年のスタジオ設立後、スタイリングや展示デザインなどで存在感を増し、近年は家具も数多く手がけるようになりました。イタリアの家具ブランドとの協業が多いふたりですが、「RELEVO RUG」はデンマークのMUUTOから最近発表したもの。単色のラグの毛足の長さを変えることで、そこに色の明暗が生まれ、モノトーンのパターンが生じます。枯山水の庭園を思わせるテクニックです。またデザインにおいてカラーリサーチを重視するスタジオペペらしく、いずれもニュアンスに富んだ4色のバリエーションにも独自のセンスがあります。

家具、照明器具、花器、ラグなどの日用品は、昔から人々の暮らしの中にあり続けてきました。つまり、すでに無数のデザインが存在しています。それにもかかわらず、ここで取り上げた6組は積極的に新しいクリエイションに挑み、体験したことのない美しさや驚きを実現しています。ものづくりの意義がしばしば問い直される現在ですが、その可能性が今なお未知であるのだと改めて実感させられます。

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