INSIGHT|vol.28インサイト|vol.28

The Original

INSIGHT

書籍『The Original』からオリジナルを考える
2024.9.2


豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。
土田貴宏
土田貴宏

ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトをはじめとするコンテンポラリーデザインを主なテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して雑誌などに執筆。東京藝術大学と専門学校桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。近著『The Original』(共著、青幻舎)。 デザイン誌『Ilmm』(アイエルエムエム)のエディターも務めている。

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東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで昨年開催された企画展「The Original」が書籍化されました。この展覧会はデザインのオリジナリティをテーマとし、時代を突き抜けるような個性や普遍性をもつプロダクトを紹介したもの。家具を中心とするさまざまな日用品を対象に、深澤直人、田代かおる、私の3人でアイテムを選定しました。単に過去の名作を再評価するのではなく、オリジナルな発想や表現がこれからの幅広い創造の手がかりになることを意図しています。MAARKETで扱うプロダクトにも、ここに選ばれたものがいくつもあります。

The Original
 
コートハンガー「ニュンヘンブルグ」は、1908年にドイツのオットー・ブルメルによってデザインされました。同じくドイツでは、バウハウスのデザイナーたちが1920年代後半から鋼管を用いた家具に盛んに取り組みますが、ニュンヘンブルグはそのムーブメントを先取るような斬新さがあります。真鍮製のパーツに光沢のあるニッケル仕上げを施し、3つのベースで全体を支える姿に、クラシックな風格とモダンな感性のミックスを感じることができます。

The Original
 
アメリカのチャールズ&レイ・イームズ夫妻のデザインには、すべてにおいて圧倒的なオリジナリティが発揮されました。1953年発表の「ハングイットオール」も、ミッドセンチュリーという時代の空気を反映しながら、現在まで愛され続けるパワーをそなえています。当初はおもちゃや洋服など何でも掛けて遊ぶためにデザインされたものながら、現在はすっかりコートハンガーの定番に。このデザインに見られるような理に適ったユニークさは、イームズのデザインの数々に通底しています。

The Original
 
高い精度で折り曲げた2枚のステンレスの板を組み合わせ、六角柱形にしたもの。傘立てやゴミ箱として使うことができますが、オブジェとしての美しささえ感じさせます。同時に、折り紙のような軽やかさも魅力です。20世紀半ばのイタリアデザインの黄金期を彩ったひとり、ブルーノ・ムナーリが長年コラボレーションしたダネーゼでから発表したプロダクト。デザイナーとしてだけでなく、アート、絵本、執筆などマルチに活躍した彼の柔軟な創造性が、このプロダクトにもひそんでいます。

The Original
 
「よいデザインは革新的である」で始まるグッドデザインの10原則を唱えたことで、広く知られているディーター・ラムス。彼が手がけるプロダクトもまた、The Originalと呼ぶのにふさわしいものばかりです。その作風はどちらかというと控えめで、機能に忠実であり、タイムレス。それでもラムス流としか言いようのない美意識がにじんでいます。使いやすいのに使い手に媚びていないところが、すぐれたクリエイションの最大の秘訣ではないでしょうか。計算機「BNE001」は、1980年代に発表された彼のロングセラーのひとつです。

The Original
 
ベルギー・アントワープ出身のマールテン・ヴァン・セーヴェレンは、1986年に自身のデザイン事務所を設立。常識に囚われない、強い作家性をもつ家具を生涯を通じて手がけます。ただし一方で、そのデザインは機能や構造についての深い洞察を反映したものでもありました。代表作「.03」は、フラットなシートに柔らかいポリウレタンフォームを使用して快適性を高めた上、背もたれのフレームがしなるという独自機構を採用しています。ストイックさとユーザーへの優しさのコントラストは、まさにオリジナルです。

The Original
 
セシリエ・マンツはデンマークを代表するデザイナーで、簡潔さと上質さを追求する姿勢により、日本でも人気を高めています。1616 / arita japan から発表したテーブルウェア「CMA」も一見、きわめてプレーンでニュートラル。しかしただのシンプルではありません。形、色、サイズのバリエーションなどをきめ細かく検討し、スケッチや試作を繰り返して完成度を高めたといいます。こうした独創性は1点だけでは伝わりにくいのですが、いくつかのタイプを揃えてセットで使うとはっきりと実感できます。

The Original
 

「The Original」展にスーパーバイザーとしてかかわり、テーマ自体の提案者でもあった深澤直人。ジャスパー・モリソンとともにスーパーノーマルを提唱し、「ふつう」をキーワードにしたデザインを数多く手がけてきたデザイナーです。オリジナル、つまり独創性や個性をテーマとした展覧会を指揮するのは、これまでの活動からするとちょっと意外に思えます。マルニ木工から2020年に発表した「TAKO」は、脚部をはじめすみずみまで曲線を取り入れた椅子。決して装飾的ではありませんが、形に対するデザイナーの熱意を感じることができます。こうした個の力こそが、The Originalをつくり上げる。そしてやがては「ふつう」として受け入れられるのかもしれません。

The Original
 
『The Original』におけるオリジナルとは、原点、つまりいちばん最初に生まれたものとは限りません。それ以上に独創性や個性といったオリジナリティを重視しています。こうした要素は、順番や数値で表現するのも、言葉ではっきり定義するのも不可能であり、リアルなものを通じて感じるのが大切です。約150のプロダクトを収録し、1点ずつ解説した書籍『The Original』は、そんなオリジナリティを捉えるヒントが詰まった1冊になりました。


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