INSIGHT|vol.27インサイト|vol.27
INSIGHT
「使える彫刻」としてのコーヒーテーブル
2024.6.28
豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。
土田貴宏
ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトをはじめとするコンテンポラリーデザインを主なテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して雑誌などに執筆。東京藝術大学と専門学校桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。近著『The Original』(共著、青幻舎)。 デザイン誌『Ilmm』(アイエルエムエム)のエディターも務めている。
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家具の多くは、暮らしの中で果たす機能が第一に求められます。しかし、そんな機能にあまり縛られずにデザインできるのがコーヒーテーブルです。ソファやラウンジチェアのそばに置くテーブルは、どう使うかよりも、目を楽しませる役割が大切。だからこそ他のインテリアアイテムに比べて素材やフォルムの自由度が高く、幅広いテイストのものがいくつも生まれてきました。
彫刻的なコーヒーテーブルといえば、最も広く知られているのはイサム・ノグチではないでしょうか。「ノグチ コーヒーテーブル」は、彫刻家である彼の造形感覚が豊かに表現された、1944年発表の逸品。ゆるやかなアールに縁取られたガラスの天板を、1対の同じ形をした木の脚部が見事なバランスで支えています。天板のガラスは、その重さによって安定感を高めるとともに、脚の構造を際立たせて見せます。この脚部は組立式で、フラットな状態で流通できるため、きわめて合理的なデザインでもありました。
アメリカのミッドセンチュリーを代表するデザイナーのひとり、ウォーレン・プラットナーの「プラットナー コレクション コーヒーテーブル」も、やはり名作です。プラットナー コレクションはラウンジチェアが有名ですが、同様の手法によってワイヤーで構成した脚部は、テーブルのほうがより純度の高い美しさがあります。同じコレクションを組み合わせるのはもちろん、木の家具と組み合わせてもモダンにコーディネートできそうです。
ドイツ人デザイナーのコンスタンチン・グルチッチは、工業的なプロセスを経て製造される家具に特別な思い入れがあるようです。そんな彼がしばしば用いる素材がメタルシート。折り曲げることで構造をつくり、機能がそなわり、その一体性がデザインそのものになります。「ディアナD」はこうした作風の典型として位置づけられるもので、1枚のメタルシートを高い精度で成形し、ガラスの天板を載せました。このフォルムは小さな建築のようでもあり、ユーザーが自ら使い方を見つける楽しさもあります。
フィンランドを拠点に、国外で学んだ経験も生かし、巨匠アルヴァ・アアルトの次世代を担ったイルマリ・タピオヴァーラ。実直な姿勢で多くの家具を手がけた彼ですが、一方で新しいデザインに挑戦する面もありました。1954年発表の「トリエンナ コーヒーテーブル」は、同じ形の3枚の成形合板のパーツをジョイントしたもので、真上から見ると六角形をしており、シンプルながら大胆さをそなえています。ラウンジチェアに合わせて使うのにちょうどいい大きさで、移動がしやすいのもポイントです。
ドイツ出身のクリスチャン・ハースが2021年に発表した「マテリア ロング テーブル」は、トラバーチンの天板に特徴があります。近代建築に多く用いられてきた石材として、かっちりとした印象のあるトラバーチンですが、あえてソフトな曲線を取り入れることで新しい魅力を引き出しました。天板は縁の部分が高く、中央がなめらかに窪んでいて、脚部のフォルムと調和。全体的におおらかで、自然のリズムを感じさせるデザインです。
曲げ木家具で有名なGTV (ゲブルーダー トーネット ヴィエーナ)の技術を生かし、スウェーデンのフロントがデザインした「ピア」。このブランドの定番の椅子に用いてきた構造を応用しながら、2種類のフリーフォームの天板を採用し、今までにない曲げ木のテーブルを完成させました。この天板は一部が直線なので、複数のテーブルを接するように並べることも可能。自由にレイアウトすることで、リビングスペースをグラフィックで彩るような楽しさがあります。
この作品は、今年4月にミラノサローネのサローネサテリテで展示されていた、碇川裕人による「DOVE TABLE」です。鳩のフィギュアと1枚のガラスの天板によってテーブルをつくる、その自由な発想がきわめて新鮮。同時に、コーヒーテーブルにはデザインの制約があまりないことがわかります。今年のミラノデザインウィークでは、フェイ・トゥーグッドやサビーヌ・マルセリスといった今をときめくデザイナーも新しいコーヒーテーブルを発表していました。インテリアの必需品ではないためか、あまり注目されてこなかったアイテムですが、今後はそのポテンシャルが見直されそうな予感がします。
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