INSIGHT|vol.22インサイト|vol.22

みんなが集まりたくなる丸いテーブル

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みんなが集まりたくなる丸いテーブル
2023.6.28


豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。
土田貴宏
土田貴宏

ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトをはじめとするコンテンポラリーデザインを主なテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して雑誌などに執筆。東京藝術大学と専門学校桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。近著『The Original』(共著、青幻舎)。 デザイン誌『Ilmm』(アイエルエムエム)のエディターも務めている。

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大変だったパンデミックがひと段落して、家に人が集まり食事する機会が徐々に増えてきました。そんなシーンにひときわふさわしいのが、円形やオーバル形のテーブルです。取り囲む椅子の置き方について制約が少ないので、こうしたテーブルは来客のある時に便利。またテーブルを囲む誰もが視線を合わせやすく、雰囲気を寛がせる効果もあるでしょう。一緒に使うおすすめの椅子とともに、モダンな6点のテーブルを選びました。

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イサム・ノグチは彫刻家として世界的に有名ですが、1950年代までに手がけたいくつかの家具もまた傑作揃いです。1957年に発表されたダイニングテーブルはそのひとつで、細いスチールの棒をあや取りのように組み上げた脚部が丸い天板を支えています。この独創性あふれる構造は、もともとノグチがスツールのために発想したものですが、家具ブランド「ノル」のハンス・ノールが同様の構造をテーブルに応用することを提案します。細い棒を使ったデザインが、すでに世に出ていたハリー・ベルトイアのワイヤーコレクションの椅子を合わせるのにぴったりだったのです。またベルトイアが開発に携わったというチャールズ&レイ・イームズの「イームズワイヤーチェアDKR」も、相性のよさでは負けていません。

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デンマークのハンス・J・ウェグナーがデザインした「CH337」は、円形に近いオーバル型の天板をもつダイニングテーブルです。天板はもちろん脚部にも木を使い、質感の優しいオイル仕上げを採用して、ウェグナーらしい木の家具の味わいを日々楽しむことができます。天板のサイズは140cm×115cmで、4人で使うのにちょうどいい大きさ。また伸長板(別売り)をセットできる機構になっていて、1枚プラスで200cm、2枚プラスで260cmの長さのテーブルへと変身します。テーブルと同じ材質の「CH24 Yチェア」を組み合わせるのが一般的ですが、あえてブラックのCH24を合わせても空間が締まります。また現代の木の椅子の名作と言えるセシリエ・マンツの「ワークショップチェア」や、ややクラシックな趣のあるヨーゼフ・ホフマンの「N.811チェア」などを合わせるのも新鮮です。

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ウェグナーの「CH337」と同様に木を使いながら、まったく異なるキャラクターをもっているのがジャン・プルーヴェによるテーブル「ゲリドン」。椅子から建築まで、彼が一貫して多用した斜めのラインや三角形のフォルムが、デザインに研ぎ澄まされた印象を与えています。このテーブルは、プルーヴェの椅子を合わせやすいのはもちろんですが、ハンス・コレーの「ランディチェア」や、エメコが第二次大戦中に開発した「ネイビーチェア」のようにインダストリアルな雰囲気を持つ椅子ともフィットします。ウッドとアルミニウムの素材感のコントラストが、互いを引き立てて見えるのです。またゲリドンと同じ構造を用いたサイドテーブル「タブレボワ」をスツール代わりにしてもいいでしょう。

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オランダのショルテン&バーイングスがデザインした「カラーウッドダイニング95」は、14角形の天板をもつグラフィカルなフォルムが魅力です。一般にテーブルは、多様なデザインのものが揃う椅子に比べて地味な存在ですが、このテーブルの存在感は空間のメインになりえるもの。ただしどんなインテリアにも合うプレーンさも同時にそなわっています。一緒に使う椅子としては、同じデザイナーによる「カラーウッドサイドチェア」が最適。またテーブルのデザインを邪魔しないクリア素材の「プリアチェア」のような軽快な椅子も、時代を超えた調和をもたらします。

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ダイニングテーブルの名作といえば「サーリネンコレクションオーバルテーブル」に触れないわけにいきません。4本脚の椅子やテーブルが並ぶ場面に乱雑さを感じたエーロ・サーリネンは、有機的な曲線をもつ1本脚によって、その課題の解決を図りました。この時に生まれた椅子が有名な「チューリップチェア」ですが、オーバル型や円形のぺデスタルテーブルも同時に手がけていたのです。やはりテーブルと椅子をサーリネンで揃えるのが理想ですが、アルヴァ・アアルトの「スツール60」を合わせると、シンプルな曲線同士に不思議な相性のよさを感じます。サーリネンもアアルトも、ともにフィンランドにルーツをもつ建築家という共通性がありました。

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アルヴァ・アアルトもまた、成型材を用いたスツールや椅子とともに数々のテーブルを手がけています。中でもユニークなのは「95テーブル」で、こちらは半円型の天板が特徴。壁際や窓辺のコンソールテーブルとしても、2台一緒に円形に並べても、長方形のテーブルにつけて使っても、それぞれに重宝します。またメインのダイニングテーブルとは別に室内に置いて、仕事用のデスクにするのも今日的です。その場合の椅子は、同じアルテックがラインアップしている「ライバルチェア」が最適。これはアアルトのテーブルと同じくアルテックが受け継ぐラメラ曲木を使い、コンスタンティン・グルチッチがデザインした回転式チェアです。
四角い部屋に暮らすなら、空間をいちばん効率よく使えるのは四角いテーブルでしょう。丸いテーブルは、必ずしも限られた空間にきっちりはまるものではありません。しかしそこに自然に生まれる余白が、暮らしの中にゆとりをつくります。最近は徐々にデザインのバリエーションも増えており、やがては丸いテーブルがダイニングのスタンダードになるかもしれません。


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