INSIGHT|vol.40インサイト|vol.40

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INSIGHT

コンスタンティン・グルチッチの実験と遊び

2026.8.28


豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。
土田貴宏
土田貴宏

ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトをはじめとするコンテンポラリーデザインを主なテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して雑誌などに執筆。東京藝術大学と専門学校桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。近著『The Original』(共著、青幻舎)。 デザイン誌『Ilmm』(アイエルエムエム)のエディターも務めている。

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完成度の高いマスプロダクトを数多く手がけながら、個性あふれる表現にも長けたデザイナーがいます。たとえばフィリップ・スタルクやパトリシア・ウルキオラがそうですが、コンスタンティン・グルチッチもそのひとりでしょう。出身国であるドイツのイメージもあり、彼はストイックで堅実なものづくりをひたすらに追求していると思われがちかもしれません。確かにそんな一面はありますが、機能だけに囚われない実験性や、常識を超えるようなラディカルさも、そこにそなわっているのです。
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1999年発表の「MAYDAY」は、グルチッチの名前が世界中で広く知られるきっかけになったロングセラー。フックなどに掛けても、床や棚に置いても、手にもって照らすこともできる、画期的なマルチパーパス照明の傑作です。円錐形のシェードは光を拡散させるとともに、光源を保護し、置いて使うときはベースになります。必要に応じて移動できるようにコードは約4.8mと長く、それを巻きつけられるようにハンドル部分には突起があります。1991年に自身のスタジオKonstantin Grcic Industrial Designを設立した彼は、当初から工業製品としての必然性を常に重視していました。ただし照明器具を「道具」として捉え、固定化したインテリアから解放する視点には、他のデザイナーにはないユニークさがあります。
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2004年に発表された「CHAIR_ONE」は、鋳造アルミニウムの多面体によるシートがひときわ目を引く製品です。この素材や技術は、きわめてインダストリアルなもの。グルチッチは、人の身体を支える座面のシェルを、多くの試行錯誤を経て完成させました。この椅子の開発時は、コンピュータよりも主に紙やワイヤーなどの原寸模型によって、形状を検討していました。2015年にミュンヘンで開催された個展「THE GOOD, THE BAD, THE UGLY」などで、それらの試作品の数々が公開されています。あまりに実験的なスタイルだったため、グルチッチもメーカーのマジスもこの椅子の商業的成功を予想していなかったそうですが、やがて両者を代表する家具になりました。

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「ODIN」は、グルチッチがいかに独自の視点で椅子を捉えているかを伝える好例です。ゆったりとした姿勢でくつろげるソファとは対照的に、ふたりで座って向き合うことを促すような、コンパクトで幾何学的なフォルム。そのために最適な空間を生み出しています。コミュニケーションの促進という機能を目的にするだけでは、ここまでのオリジナリティには到達しないはずです。グルチッチは、2005年発表のこのソファをはじめとして、あえて限られたスペースに体を収めるような家具や空間をいくつも提案してきました。そのインスピレーションのひとつは、写真家のアーヴィング・ペンが撮影した、白い壁に挟まれるようにポーズをとる著名人のポートレートシリーズだといいます。

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ポストモダンに通じる大胆さをもつ「SAM SON」は、2016年に発表されました。U字型の背もたれは中空構造なので、座り心地は快適で、あらゆる姿勢を受け入れます。樹脂素材の持ち味を巧みに生かしているという点で工業製品として優秀でありながら、ユーモアとインパクトも十分。グルチッチの作品としては異色のようですが、はっきりとしたキャラクターをもっていることは、彼が手がける家具に共通する特徴です。それが素材、技術、実用性に即したキャラクターだからこそ、エゴの表現というレベルを超えて、実用品として受け入れられていきます。

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2022年発表の「AKA」は、椅子の既成概念を超えた椅子であることをグルチッチが自負する1脚。背もたれのある椅子としての形をしていますが、スツールのように軽快でコンパクトであり、構造についてもきわめてミニマルで、スタッキングも可能です。細めの背もたれの先端は移動時のハンドルになり、持ち運びが容易で、またぐように腰掛けることもできます。素材は成形プライウッドで、3つのパーツによってすべてを純粋に構成。「メイデイ」が照明器具を道具として捉えていたように、「AKA」も座るための道具として再考された形と言えます。また小さな椅子やスツールに、機能と彫刻性を凝縮するという彼ならではのテーマの追求を、ここにも見ることができます。

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今年、発表されたグルチッチの新作にデスクやテーブルのシリーズ「Scout」があります。ますます可変性と柔軟性が求められるオフィスのために発想されたもので、多様なレイアウトに対応でき、移動や収納にも配慮しています。特にワークデスクは、フレームに用いたスチールパイプに、パーティションをはじめ豊富なアクセサリーを設置可能。また天板の高さもユーザー自身が簡単に変更できます。スチールパイプの家具というと、20世紀初頭のドイツのデザイン学校バウハウスの代名詞であり、グルチッチもしばしばこの素材に向き合ってきました。「Scout」はその彼らしい発展形として位置づけられるとともに、アクティブでフレキシブルな現代のオフィス家具に仕上がっています。

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グルチッチは昨年から「25kg」というレーベルでプロダクトを発表しています。これは彼が自主的に始めたもので、新しいアイデアを実現するための「遊びと実験のプラットフォーム」。ステンレスパイプ製のスツール「THINGS_01」や、単管に固定すると座面になる「THINGS_04」など、現在まで4つの製品がオンライン販売されています。「私には、対話を推し進め、時には論争さえ起こすようなアイデアを具現化したいという強い衝動がある。そうしたものを議論の場に投げかけたい」と、グルチッチは25kgのウェブサイトで述べています。この活動は他の家具メーカーと競合するのではなく、メーカーでは製品化されにくいものをあえて提示するための、彼自身によるステイトメントなのです。溶岩のような天然素材を用いたり、溶接後の変色をそのまま残している点などにも、グルチッチのデザイン観が現れています。

なお当初はKonstantin Grcic Industrial Designだったグルチッチのスタジオは、2018年にKonstantin Grcic Designへと名称を変えています。これはインダストリアルデザインを軸としながらも、エディション作品の発表、展覧会の企画構成、多業種との協業などへと仕事の幅を広げてきたことの反映でした。また並行して、デザインの存在意義を問いかける姿勢がいっそう明確になってきたようです。こうしたグルチッチの活動に注目していると、現在ならではのデザインを取り巻く課題や可能性をリアルに実感することができます。


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