INSIGHT|vol.33インサイト|vol.33
INSIGHT
3daysofdesignの新しい動き
2025.7.04
豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。
土田貴宏
ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトをはじめとするコンテンポラリーデザインを主なテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して雑誌などに執筆。東京藝術大学と専門学校桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。近著『The Original』(共著、青幻舎)。 デザイン誌『Ilmm』(アイエルエムエム)のエディターも務めている。
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今から3年前、デンマーク・コペンハーゲンの3daysofdesignをこのコラムで紹介しました。当時も注目を集めていた6月恒例の催しですが、その後も規模を年々拡大し、北欧以外からの出展者も増えています。もう明らかに、4月のミラノデザインウィークに次ぐ国際的なデザインイベントとして位置づけていいでしょう。3日間では見切れない数多くの展示のなかから、印象に残っているものをピックアップします。
3daysofdesignのイベントのなかで、小規模ながら注目度が高かったのが「Home From Home」。古びたアパートメントのような一室が、インテリアデザイナーのCharlotte Taylorの手によって、雑然としながらも極上の空間へと期間限定で生まれ変わりました。使用されている家具や日用品の多くは、ミラノのNM3、ベルギーのDestroyers / Builders、パリのGarance Valléeをはじめ、現在の新進気鋭のデザイナーによるコンテンポラリーでエッジィな作品ばかり。卓越したシノグラフィによって、それらがきわめて日常感あふれる場を構成しています。どんなデザインもリアルな生活に結びつけるアプローチは、「Keep It Real」をテーマに掲げた今年の3daysofdesignにふさわしいものです。
「10 Days Of Summer」は、フィンランド出身またはフィンランド在住のデザイナーたちによるグループ展。「10日間しかない」というこの国の夏の暮らしをモチーフに、屋外で使用するための椅子、ベンチ、プランター、バーベキューセットなどが発表されました。用いる素材はさまざまですが、テーマにふさわしい穏やかさやのどかさが共通しています。同じ北欧ながら、地域性や国民性の異なるフィンランドのデザインを、デンマークで見る感覚も新鮮。一昔前はミラノデザインウィークでこうした企画がよく見られましたが、最近は目立たなくなりました。3daysofdesignは、このようなプロジェクトの受け皿になっていくのかもしれません。
オランダのベッドブランド、AupingはスウェーデンのTeklanを起用したベッドリネンのシリーズ「Characters by Teklan」を発表しました。Teklanは色彩をテーマにプロダクトやインテリアを手がけるクリエイターで、一連のアイテムも現代的なカラーリングを組み合わせた大胆なパターンが特徴です。ただしAupingは、タイムレスな品質を重視するブランド。カラフルであっても瞬間的なインパクトを求めるのではなく、色がもつエネルギーや使う人の個性を大切にする姿勢を貫いています。Teklanはこのコレクションの発表に際して、「トレンドは移り変わり進化するが、個人と色彩との関係性は時代を越えて保たれる」とコメントしています。
1911年創業のデンマークの家具ブランド、Fredericia。そのショールームでは、同社の家具とともにSanta & Coleの照明器具が展示されました。Fredericiaはボーエ・モーエンセンのように20世紀の北欧を代表する巨匠たちのデザインを取り揃えるとともに、現代のデザイナーの起用や過去のデザインの復刻に定評があります。Santa & Coleはスペインのブランドですが、象徴的なデザイナーであるミゲル・ミラの照明をはじめ、北欧のデザインによく合うのがひとつの特徴です。オーソドックスな印象のプレゼンテーションも、家具、照明、アートの組み合わせがそれぞれのブランドの世界観を伝えています。
デンマークのMUUTOで話題になった新作はLise Vesterによる「Dream View」ベンチです。ステンレスの板を折り曲げたようなデザインは、ビジュアル優先のように見えるかもしれません。しかし人間工学をふまえたフォルムは意外なほど快適。屋外で使用できる耐久性や耐候性もそなえています。3daysofdesignに際して、デンマーク・デザインミュージアムでは彼女の作品を観せる小さなエキシビションが行われていました。光、反射、透明性などによってそれぞれに視覚的なイリュージョンを取り入れた作品は、「Dream View」ベンチの存在感と共通したところがあり、興味深いものでした。
今まで4月のミラノデザインウィークで開催されていたような展示が、今年の3daysofdesignではずいぶんと目につきます。ミラノ在住の敏腕キュレーターであるFederica Salaが、表層材のFENIXをテーマに6組のデザイナーを招待した「FAST / FORWARD」展はその代表的なもの。デザイナーたちは1920年代から2010年代の間のいずれかの10~20年間を再解釈することを条件とし、FENIXを用いて家具を発想しました。グレーの大型ベンチと赤褐色のテーブルのセットはLaurids Gallée、ストライプ柄のテーブル付きのシェイズラウンジはイタリアのFederica Biasi、照明2点のセットはスイスのPANTER&TOURRONによるもの。いずれも気鋭のデザイナーで、特にLaurids Galléeは今年のミラノでも存在感がありました。
3daysofdesignとはオーガナイザーが異なるものの、市街近郊で開催されたOther Circle。家具などのプロダクトはもとより、音楽、ファッション、フード、書籍など幅広い分野をまたぐもので、大きな話題になりました。ミニマルな作風を特徴とするスウェーデンのNick Rossは、さまざまな樹種の角材を使い、最低限の要素によって自立させた花器コレクションを発表。抽象的な花畑のような風景をつくり出しました。またスウェーデンを拠点に活躍するFredrik Paulsenは、自身のレーベルJOYでOther Circleに出展。代表作「Chair One」のカラフルなバリエーションを見せました。スウェーデンの音楽エージェンシーSENSEと、電子楽器メーカーTeenage Engineeringは、カセットテープ自体やその再生機を改造し、テープを引き出してつくったノイズを生かしたサウンド・インスタレーションを披露。デジタル化によってすべてが完璧な形で流通するようになった現在の音楽に対して、不完全なものの魅力を創造することが意図されています。
従来は3daysofdesignというと、デンマークや北欧のデザインシーンにおけるイベントという印象がありました。しかし今年はOther Circleの参入もあり、完全に国際的なデザインイベントとしての存在感を確立したようです。一方で世界最大のデザインイベントである4月のミラノデザインウィークは、曲がり角に差し掛かっているように見えます。ファッションや自動車など巨大資本のブランドによる大掛かりなイベントが増え、家具ブランドもいっそうの高級化が目立つなか、多くの人々の日常に根ざしたデザインが注目されにくいのです。3daysofdesignでは、デザインはみんなものという北欧らしい姿勢が随所にあり、そこへの共感が各国のブランドやデザイナーをコペンハーゲンに向かわせているのではないでしょうか。この街は、今後のデザインの動向において重要なパートを担っていくに違いありません。
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