COLUMN|vol.2コラム|vol.2
スチールと籐が織りなすモダンデザインの象徴
― CESCA CHAIRの魅力
チェスカチェアが今もなお愛される理由
1928年に誕生したCESCA CHAIR(チェスカチェア)は、発表から90年以上を経た今もなお、世界中で愛され続けている名作チェアのひとつです。
特徴は、工業的なスチールフレームと、背面・座面に使われた籐張りという異素材の絶妙な組み合わせにあります。
無機質でシャープな金属の質感と、自然素材がもたらす温かみが美しいコントラストを生み出し、
機能性と審美性を兼ね備えたその佇まいは、空間に詩的なリズムをもたらします。
バウハウスが生んだ、機能と美の融合
このチェアをデザインしたのは、モダニズム建築を牽引したハンガリー出身の建築・デザインの巨匠
Marcel Breuer(マルセル・ブロイヤー)。
1920年代、彼が在籍したドイツの芸術学校「バウハウス」では、“美は機能の中にある”という合理主義が徹底されていました。
当時の家具づくりは職人の手仕事が中心でしたが、ブロイヤーは「量産可能でありながら、美しい家具」のあり方を模索します。
その着想源となったのが、自ら乗っていた自転車のフレーム。軽く、強く、曲げやすいスチールパイプが、チェアの可能性を大きく広げたのです。
そして1925年、
WASSILY LOUNGE CHAIR(ワシリーラウンジチェア)に続き誕生したのがチェスカチェア。スチールと籐、そして木。工業的な素材と自然素材の融合が、時代を超えて新鮮に映る所以です。
名前の由来は、娘「フランチェスカ」
1960年代、イタリアの家具メーカー ガヴィーナ社が製造権を取得。その創業者ディノ・ガヴィーナは、このチェアに新たな名前を贈りました。
「Cesca(チェスカ)」――それはブロイヤーの娘フランチェスカの愛称です。
1968年には、Knoll Studio(ノル スタジオ)がガヴィーナ社を買収し、ブロイヤーの名作は世界中のインテリアシーンに広がっていきます。
時代が変わっても、チェスカチェアの普遍的な美しさは、人々の暮らしに静かに寄り添い続けています。
“名作”を暮らしの中へ
現在Knoll Studioから製造されているチェスカチェアは、一生ものの家具として高く評価されています。
ダイニングに、ワークスペースに、または1脚だけをアクセントとして。
どんな空間に置いても、そこに“整った空気”が流れるような不思議な力を持っています。
そして、ただ美しいだけでなく、使う人の暮らしに自然と溶け込み、年月とともにその存在感を増していくのも特長です。
長く使うほどに愛着が深まり、自分だけの風合いが加わっていく――それもまた、このチェアの大きな魅力のひとつと言えるでしょう。
ですが、、、そのチェスカ、正規品ですか?
近年、チェスカチェアの人気の高まりとともに、市場には多くの模倣品が出回るようになりました。
見た目が似ていて、価格も手頃であれば「それでも良いのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、そうした模倣品と正規品のチェスカチェアの間には、写真や数字だけでは伝えきれない、大きな違いが存在します。
デザインの再現度だけでなく、使用されている素材の質、つくりの丁寧さ、そして使い続けたときに感じられる心地よさや耐久性において、「正規品」と「それ以外」との差は歴然です。
ここでは、正規品と模倣品の主な違いを写真とともにご紹介しながら、その“本物”が持つ価値について紐解いていきます。
ー似て非なるものー
チェスカチェアを見極める
このように、写真で見比べるだけでも、印象の違いははっきりと感じられます。
チェスカチェアの正規品には、クローム仕上げのスチールパイプ、天然の籐、成形合板や無垢材といった、選び抜かれた本物の素材が用いられています。金属のフレームは光沢が美しく、溶接や曲げ加工も精緻に仕上げられており、視覚的にも構造的にも高い完成度を誇ります。
一方で模倣品には、薄く加工された安価な金属や、プラスチック製のパーツ、合成素材で作られた座面などが使われることが多く、全体の質感や重量感にも大きな差が現れます。見た目が似ていても、素材が放つ雰囲気や触れたときの感触、長く使用した際の経年変化などに、明確な違いがあるのです。

左:正規品 右:模倣品

左:正規品 右:模倣品
フレームと籐の仕上げの違い
チェアの座面に使用されている籐(ラタン)と、フレームの仕上げに注目すると、正規品と模倣品の間には明確な違いが見えてきます。
正規品は、やや太めの籐が立体的に編まれており、自然素材ならではの豊かな表情があります。全体に均一感がありながらも、柔らかな雰囲気があり、機械編みでありながら手仕事のような温もりが感じられます。
それに対し模倣品は、合成素材の籐のようなものが使われており、やや平たくフラットな印象。編み目も小さく整いすぎており、どこか硬質で無機質な印象を与えます。
また、フレームとの接合部分にも違いがあります。正規品では黒縁のフレームと籐が自然に馴染み、全体に一体感がありますが、模倣品ではフレームとの境界に白い隙間が見え、やや浮いたような印象になります。
さらに模倣品は、座面の下に白い補強ネットのような素材が見えることがあり、通気性や見た目の点でも正規品とは異なる印象を与えます。
背もたれと座面の角の形状
チェアの印象は、構造やフォルムのわずかな違いによって大きく変わります。
背もたれや座面、そして全体のフレームのラインに注目すると、正規品は背もたれ・座面ともに角が柔らかく丸みを帯び、滑らかな曲線で構成されています。
カンチレバー構造や曲げ木の美しさが引き立ち、座ったときのフィット感にも自然な心地よさが感じられます。
ところが模倣品は、フレームがやや直線的で角の丸みも硬い印象です。
特に正面から見るとそのラインの違いが顕著で、背もたれの角度も直立気味です。
そのため、デザインのバランスや座り心地に影響があると考えられます。
こうした微細な差異が、空間に与える印象や日々の使用感を左右します。見た目だけでなく、その形の「意味」にもぜひ目を向けてみてください。

左:正規品 右:模倣品

左:正規品 右:模倣品
全体のプロポーションと仕上げ精度の差異
チェアの印象を左右するのは、全体のバランスや仕上げの精度です。
正規品は、フレームや脚部のステンレスの曲げが滑らかで、プロポーションも美しく整っています。座面や背面にもたわみがなく、端正なシルエットを保っています。
特に注目すべきは、座面と背もたれの曲線。正規品では、パイプが体に自然と沿うように精緻に曲げられており、構造材でありながら機能美を感じさせます。
背もたれも、曲木による緩やかなカーブが背中に心地よくフィットし、長時間でも快適です。
一方、模倣品では、そうした繊細なラインや一体感が再現されておらず、座面が浮いて見えたり、フレームの角度にズレを感じることも。
脚部のスチールの曲げや溶接もやや粗く、座り心地に差が出る要因となります。
わずかな違いに見えても、細部のつくり込みが、美しさと快適さを生み出しているのです。
座面と背もたれのつながり
実際に腰かけてみて最も印象的だったのは、座面と背もたれの間の構造の違いでした。
正規品は、背もたれと座面の距離感が緻密に設計されており、腰からお尻にかけてしっかり体を支える構造です。
対して模倣品は背もたれとの間隔が広く、腰のサポートが弱いため、実際に座ると体が沈み込むような不安定さを感じます。
構造面でも違いは明確で、正規品は背と座のつながりがなだらかでカーブに一体感があり、フレームとパイプの接合も自然。
一方の模倣品は直線的で角度に不自然さがあり、フレームラインも途切れがちで、見た目にも硬い印象です。
こうした設計の差が、最終的な座り心地の違いに大きく影響しているのです。

左:正規品 右:模倣品

左:正規品 右:模倣品
脚まわりの快適性
正規品の脚部は、ステンレスパイプが滑らかにカーブし、座面下に自然に沿うよう配置されています。曲げ加工や溶接も丁寧で、全体のシルエットに一体感があり、フレームの立ち上がりもやわらかく、完成度の高さが際立ちます。
その一方で、模倣品は脚のカーブにやや角が残り、取り付け位置も低め。フレームの立ち上がりも直線的で、全体のバランスに違和感があります。
意外と見落とされがちですが、実際に座ると脚まわりの快適さにも差がありました。
正規品は、パイプの角度や配置が緻密に設計されており、脚に触れず自然な姿勢が保てます。対して模倣品は、パイプの位置にわずかなズレがあり、膝裏に当たって気になることも。
見た目では気づきにくいこうした細部の設計こそが、日々の快適さを左右するのだと実感しました。
― 90年愛されてきた“確かさ”の正体 ―
いかがでしたでしょうか。
チェスカチェアに限らず、毎日使う家具だからこそ、見た目の美しさだけでなく、細やかなつくりや使い心地が、日々の暮らしにそっと寄り添ってくれます。
“本物”には、長く使うほどにわかる良さがあります。だからこそ、毎日ふれるものは、信頼できるつくりのものを選んでいただきたいと思います。
チェスカチェアが長く愛されてきたのは、シンプルなデザインの中に、丁寧につくられた確かさが宿っているからかもしれません。
Knoll Studio の正規品であれば、座面の張り替えなどアフターサポートもご用意しており、安心して長くお使いいただけます。
時を重ねるごとに深まる味わいと、変わらない心地よさ。
チェスカチェアは、これからもずっと、暮らしのそばで静かに寄り添ってくれるはずです。
Knoll Studio COLLECTION