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デザインウィークを通して知るミラノ

INSIGHT

Takahiro Tsuchida

vol.21 2023.4.28

豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。

土田貴宏
土田貴宏

ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して、「Casa BRUTUS」「AXIS」「Pen」などの雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学と桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。
近著「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」(PRINT & BUILD)
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先日までイタリアで行われていたミラノ・デザインウィーク。4月が恒例だったこのイベントですが、2020年からはパンデミックの影響で中止や日程の変更が相次ぎ、今年は4年ぶりに予定通り4月開催が実現しました。そこで特に印象的だったのは、ミラノという都市ならではの空間を舞台にした催し。その代表的なものを紹介します。

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独自の編集力を生かして多彩なブランドを扱う「SPOTTI MILANO」。そのオリジナルの家具ブランドとしてスタートし、着々と存在感を増しているのが「SEM」です。今回、SEMは市街中心部の商業的なエリアを少し離れた集合住宅の一室を会場に選び、「CASA SEM」と題して一連のコレクションを展示しました。大理石をふんだんに用いた建物の入り口から重厚な雰囲気が漂います。

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細部まで装飾を凝らしながら、どこかモダンさもある室内。そこに気鋭のデザイナーを起用するSEMの家具が見事なバランスでレイアウトされました。脚部が彫刻的な「Butterfly」コンソールはHannes Peerによるデザイン。さらに団扇を使ったインゴ・マウラーによるヴィンテージの照明や、抽象的な現代の絵画を合わせています。伝統と現代性が1本の線でつながっている、ヨーロッパの住文化を感じさせる設えでした。

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イタリア人デザイナーのクリスティーナ・チェレスティーノは、ミラノ有数の歴史あるテニスコートとそのクラブハウスでサイトスペシフィックな展示「CLAY COURT CLUB」を行いました。この建物は建築家のジョヴァンニ・ムツィオが1920年代から手がけたもので、ヴェネチア風の意匠など古典的要素を当時の解釈によって取り入れています。チェレスティーノがデザインしたのは、この施設の特徴やテニスコートの環境をふまえた家具。屋内用もアウトドア向けも取り揃えました。

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建物の一端にある円筒形のスペースには、開業当時の用途を甦らせてレストランを期間限定オープン。空間の形に合わせたテーブルはじめ、やはりチェレスティーノがデザインしたアイテムで統一してありました。このテニスクラブは会員制のため、普段は誰もが入れる場所ではありません。こうして足を踏み入れる体験のもの珍しさと、自由に展開されたクリエイションの洗練が、多くの人を魅了したようです。

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デザインマイアミの初代ディレクターであり、シーンにおいて個性的な活動を続けるアンブラ・メッダ。彼女がファッションのバックグラウンドをもつVeronica Sommarugaとともに新しくスタートした「AMO」というチームがあります。ふたりが今年のデザインウィークに合わせてキュレーションした「Teatro Albers」は、20世紀のモダンアートを代表するジョセフ・アルバースと、ノルのテキスタイルのデザインでも知られるアニ・アルバースの夫妻をモチーフに、ハンドメイドの魅力にフォーカス。展示会場になった学校兼修道院「Istituto Marcelline Tommaseo」の観劇場は、1906年に建てられた施設の一部です。

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Teatro Albersでは、アルバース財団とコラボレーションして、 ロンドン在住のMarco Campardoがデザインした色とりどりのスツールが展示されました。格式を感じさせる空間のディテールも、その鮮やかさを際立たせます。大理石のモザイクによる床面はイタリアでしばしば見られるものですが、学校のような施設にこれほどの面積で使われているのを見ると、この国の住空間の豊かさに改めて圧倒されます。

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イタリア屈指の人気デザイナーであるエリザ・オッシノと、デンマーク・コペンハーゲンを拠点に室内を彩るアイテムを手がけるJosephine Akvama Hoffmeyer。ふたりが2019年に始めた「H+O」のショールームは、他にもインテリア関連のスポットが数多く集中するソルフェリーノ通りの集合住宅の中にあります。その空間でまず目を引いたのがオリジナルのペイントとタイル。さらにインテリアスタイリストとしても活躍するオッシノのセンスが発揮されていました。今年のテーマは「Butterfly Effect」で、レモンイエローにペイントされた部屋が最も印象的。昔ながらの建物が、ふたりの感性によって新しい暮らしのイメージを喚起させます。

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今回のH+Oの展示は、デンマークの家具ブランド「MUUTO」を主役に据えたもの。ピンクの椅子はミカ・トルヴァネンがデザインした「Visu Chair」、水色のソファはアンデシェン&ヴォル「Oslo Sofa」、グリーンのプフは「Five Pouf」です。いずれもカラーリングによってはベーシックに使えるアイテムですが、こうしたカラーを選ぶと新鮮です。イタリアの建物にやはり多く見られるテラゾーの床との相性は、Josephine Akvama Hoffmeyerの高度な色彩感覚に裏づけられているのでしょう。

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スイス発のシステム家具メーカー「USM」は、歴史的な街並みの残るブレラ地区の自転車専門店「ROSSIGNOLI」で数年前から展示を行っています。今回はスイス人アーティストのClaudia Comteによるグラフィックで覆われた限定仕様のパネルが披露されました。社会的活動に重点を置き、世界各国のクリエイターによるモデルを手がけるスケートボードブランド「THE SKATEROOM」とのコラボレーションです。合理的なものづくりを一貫して行うUSMだからこそ、意外性あふれるデザインも魅力が光ります。

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今年のミラノ・デザインウィークでは、他にも教会、プール、廃墟化した建物など、街を観光するだけでは接点をもちにくい場所がいくつも展示会場になりました。上の写真はニューヨークの「GALERIE PHILIA」が市内の古い教会で行った「Desacralized」展の様子。知られざる場所の魅力が、デザインイベントによって広く開かれることになったのです。世界中の人々が、こうした機会によってミラノをあらためて好きになったに違いありません。



現在、21_21 DESIGN SIGHTにて土田貴宏氏がディレクターを務める企画展「The Original」を開催しています。詳しくはこちら

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