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タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

INSIGHT

Takahiro Tsuchida

vol.15 2022.04.25

豊かなクリエイションを発信するもの、こと、人、場所をデザインジャーナリストの土田貴宏さんの目線で捉える“INSIGHT”。隔月の更新で世界のデザインのあれこれをお届けします。

土田貴宏
土田貴宏

ライター/デザインジャーナリスト。2001年からフリーランスで活動。プロダクトやインテリアはじめさまざまな領域のデザインをテーマとし、国内外での取材やリサーチを通して、「Casa BRUTUS」「AXIS」「Pen」などの雑誌やウェブサイトで原稿を執筆。東京藝術大学と桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。
近著「デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ」(PRINT & BUILD)
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タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

アメリカのワシントンDC在住のジョナ・タカギと、ノルウェーのオセロ在住のホルゲール・ホムスベット。彼らは遠く離れた場所に住みながら、タカギ&ホムスベットという2人組として多くの家具や照明器具を手がけています。今までになかったタイプのコラボレーションには、リモートワーク時代のヒントが隠れています。

タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

ジョナ・タカギは1979年東京生まれのデザイナー。アメリカで育ち、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン(RISD)で学んだ後、ミュージシャンとしても活動しながらデザイナーになりました。一方、ホルゲール・ホムスベットは1977年生まれのノルウェー出身のデザイナーで、オーストラリアの大学に留学しています。帰国後にデザインユニット「ノルウェー・セイズ」の一員として注目を集め、2009年に独立。ふたりはそれぞれに活動していますが、2017年からタカギ&ホムスベットという2人組としてのプロダクトが目立っています。デンマークの照明ブランド「レ・クリント」のペンダントライト「LAMELLA」は、彼らのコラボレーションの初期の代表作です。

タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

レ・クリントは長い歴史をもつ照明ブランドで、優しい質感のプラスティックシートを折り曲げてつくる照明器具で広く知られています。タカギ&ホムスベットは、このブランドのアーカイブから、長く使われていなかった技法に光を当て、有機的な曲線が美しい「LAMELLA」をデザインしました。この名前は、キノコの傘の裏側のひだを意味する言葉。点灯時のシェードの陰影がとても印象的です。

タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

ふたりが一緒にデザインしはじめたのは、「LAMELLA」を開発していた時期にあたります。
「私たちは、アイデアやビジネスの提案を共有できる同志がいることを純粋に楽しんでいるのだと思います。個人や小さなスタジオでデザイナーとして活動するのは、自由度が高い反面、考えをぶつけあう相手がいないのが難点。それに対して私たちのやり方は、単純に楽しいし、お互いにとってプラスがあります。タスクを分担したり知恵を出し合うことで、より複雑なプロジェクトにも対応できるのです」とホムスベットはコメントしています。テーブルライト「PLEAT」は、「LAMELLA」の翌年にアメリカの「Design Within Reach」から発表されたもので、シンプルさと繊細さが一貫しています。

タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

昨年、発表されたソファ「Ami」は、ホムスベットが住むノルウェーのブランド「Hjelle」の製品。サステナビリティの視点から既存のラウンジチェアを観察した結果、構成要素をフレームとクッションに分割したデザインになりました。「違う場所に暮らす私たちは、ひとりが仕事を終えた後に、もうひとりが仕事を始めるので、24時間体制なのです」とホムスベット。ふたりはいつもZoomやTeamsなどのツールを使ってコラボレーションを行なっているのです。ホムスベットの意見に対して、タカギはこう述べています。
「時差は恵みであり、苦労の種でもありますね。プロジェクトが始まると勢いを保ち続けられるメリットがありますが、テーブルの向こうに手を伸ばしてペーパーナプキンにスケッチできたら! という時もあります」

タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

「私たちのコラボレーションの最大の利点は、ふたりの生活の中の体験がそれぞれ独自の世界観に基づいていることだと思います。何かをつくる時に、文化や歴史などが参照され、どのように反映されていくのかを見るのは興味深いことですが、それがホルゲールと私とではかなり異なっているのです」とタカギ。近年、2人組を中心とするデザインスタジオは世界的に増えていますが、同じ国や学校の出身であるケースがほとんどです。彼らの場合、それぞれのバックグラウンドをもち、デザイナーとして独立してから協働を始めているのです。
「Design Within Reach」の椅子「Contour」は、互いに何週間もかけてスケッチを描き、それをスキャンしたものをトレースし合って、背もたれの大きさやフォルムを決めていったそうです。そのディテールが、構造的な強度とも一体になっています。

タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

アメリカの新しい家具ブランド「DIMS」から発表したソファが「ALFA」。この名前に象徴されるように、1960年代のイタリア車の滑らかな曲線にインスパイアされたフォルムが目を引きます。十分なボリュームのクッションと、その視覚的な軽さのバランスが見事です。彼ら自ら、他のソファに比べてユニークでありながら、奇を衒っていない存在感が気に入っているようです。
「私たちは、何か意味あることをするためにアイデアをミックスしますが、最終的な目的は確固とした製品を創造することです。ふたりとも互いのエゴを脇に置くことが得意なのだと思います」とホムスベット。またタカギは「私たちはある意味、精神的に繋がっていると感じています」と述べています。

タカギ&ホムスベット、新しい関係性が生む家具

ふたりにお互いをデザイナーとしてどのように評価しているか尋ねてみました。
「ジョナは、ディテールやスタイルについてとても鋭い目をもっています。またとても好感のもてる人物で、点と点を結んで新しいプロジェクトを立ち上げることがよくあります」(ホムスベット)
「ホルゲールはとても率直で、要点をおさえ、そして妥協しません。そんな彼の性格が生まれながらの好奇心と一緒になって、アイデアのコミュニケーションを豊かにしています。結果としてとても簡潔で、思索的で、圧倒的な結果をもたらすのです」(タカギ)

古来からあるセラミックの押出成形によるフラワーベース「Penne」は、彼らが共同作業を始めて間もない頃に発表されたもの。互いに実績あるデザイナーのコラボレーションでありながら、最初から息の合った関係が築かれていたことが、この飾り気のないデザインから伝わります。地域の隔たりをプラスに変えるふたりの柔軟な姿勢こそが、現代のライフスタイルにふさわしいものを生み出していくのでしょう。

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