有明海に注ぐ、筑後川の下流に位置する佐賀県諸富町。上流の豊かな山林資源と水運を活かして、古くから船大工や木工業で栄えてきたまちです。対岸に広がる福岡県大川市といえば、約450年もの歴史を持つ日本有数の家具の産地として知られていますが、1955年に両地域を繋ぐ橋が開通したのを機に、諸富町でも家具産業が発展していきました。
ARIAKEは、そんな諸富の地で2017年に誕生した家具ブランド。地元で木製家具工場を営むレグナテックと平田椅子製作所の2社が「日本ならではのデザインと素材、そして職人技を凝縮させた家具を世界に発信したい」という想いで共同設立しました。
ARIAKEのブランドディレクターであるGabriel Tan(ガブリエル・タン)は、シンガポール出身でポルトガルやニューヨークに拠点を持ちながら国際的に活動するデザイナーですが、レグナテックと平田椅子製作所の経営陣とTanが初めて出会ったのは、ARIAKE設立前の2016年のこと。シンガポールで開催されていた家具国際見本市IFFSで、互いに隣のブースに出展していたのがきっかけでした。レグナテックと平田椅子製作所にとっては2015年に続く2度目の出展でしたが、賑わいを見せるTanのブースとは対照的に、2社の結果は惨敗。様々な課題を抱えて日本に帰国した彼らは、海外進出の戦略を一から練り直します。
「これまで制作してきた国内デザイナーによる国内販売のための製品と、海外で求められているMade in Japanの日本らしさは異なるのではないか。」そう感じた2社は、自分たちに無い新たな視点や発想をもたらしてくれる海外のデザイナーの起用を決意し、若手ながらも活躍を見せていたGabriel Tanに声をかけたのです。「もう一度シンガポールの見本市に出展するから我々の家具をデザインしてもらえないか。」そんな問いかけに対するTanの返答は「せっかく世界に向けてオリジナルブランドを展開するのであれば、私だけでなく世界中のデザイナーたちとチームを組みませんか?」という、予期せぬものでした。ブランディングやディレクションも手掛けるTanは、自身の人脈を活かして諸富家具のブランドをさらに発展させようとしてくれたのです。想定外ともいえる壮大なプロジェクトの提案に、2社の社長は思わず驚いたものの、どうにかTanの熱意に応えたいという想いで予算やバックアップ体制を整えていきました。ARIAKE誕生の背景には、こうした経緯があったのです。
ちなみに、ブランド名の「ARIAKE(有明)」は ”夜明け”を意味しますが、有明海が世界に繋がる湾であるように、日本の諸富の地からグローバル市場への参入を目指す野心的な挑戦が、いよいよ幕を開けることになりました。
その後間もなく、2016年に第1回目のデザインワークショップが開催されました。Gabriel Tanの他、ノルウェーのデザインユニットAnderssen&Voll、スウェーデンのデザイナーStaffan Holm、日本の建築家・プロダクトデザイナーの芦沢啓治、そしてアートディレクターとしてスイスのデザイナーMartina Perri、フォトグラファーとしてスイスのSebastien Stadierの計6名がスターティングメンバーとして諸富に集結。翌年の2017年にも第2回目のワークショップが開催され、初期メンバーに加え、デンマークのデザインスタジオNorm Architects、カナダのデザイナーZoe Mowat、日本のデザイナー安積伸が参加しました。
ワークショップが始まると、デザイナーらは佐賀の空気を肌で感じ、地元の建築物や伝統工芸など、様々なものにインスピレーションを受けてスケッチを描き出します。それらを形にするのは、レグナテックと平田椅子製作所が誇る熟練の職人たち。デザイナーらと何度も対話を重ねながら試行錯誤を繰り返し、プロトタイプを仕上げていきました。わずか1週間〜10日程の限られた期間にも関わらず、参加者全員の研ぎ澄まされた集中力によって新商品が次々に誕生。その結果、第2回のワークショップを終えた時点で、全23点の家具コレクションが勢揃いしました。
Gabriel Tan率いるARIAKEは、次なるステージとしてヨーロッパでの展示会の開催を決意します。過去に参加したシンガポールでの展示会で苦い思いを味わったレグナテックと平田椅子製作所の2社は、異国の地でのお披露目に不安を募らせつつも現地に赴きました。しかし、いざ蓋を開けると彼らの予想をはるかに上回る盛況ぶり。展示の様子は現地のメディアにも掲載され、ARIAKEは大きな注目を集めることになりました。
こうした展示会を重ねた結果ARIAKEは、少しずつその名が知られるようになり、ヨーロッパ諸国をはじめ約15カ国に輸出されるまでに成長を遂げました。ARIAKEの製品は日本国内での需要も高まり、我々の暮らしの中に少しずつ浸透し始めています。